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描いた未来  

2008年 03月 30日

「もう、家に帰ろう」

写真家・藤代冥砂が、彼の妻でモデルでもある田辺あゆみを3年に渡り撮り続けた写真集である。

この写真集との出会いは、ある写真雑誌のポートレイト特集での1枚の写真。

柔らかい光の中…
風で翻るベール…
その奥で、微笑む花嫁

藤代氏は、首からライカM3をぶら下げて式に臨んでいたそうだ。

神父に何度も「本当にそれでいいの?」と尋ねられたらしい。

一生に一度のこと。
だから、一番近くで撮りたかった。

素晴らしくシンプルで、素晴らしく温かくて、素晴らしく彼らしい答え。

彼は言う。

『写真に写っている彼女は、過去の人だ。
見る度に、あの時には戻れないと思う。
だからこそ、今この瞬間を大切に生きよう、精一杯に愛そうと強く思うのだ。』

かつて…

私にも、撮り続けたいと思った人がいた。
しかし残念ながら、その人は私のもとを去り、ファインダーの中からもまた消えてしまった。
彼女のいない、物足りなさだけが残る風景を撮り続けることは、糸の切れた凧のようなもので、一時の風に乗り飛ぶことは出来たとしても、いつかは地面へと落ちる。

写真を撮ることは、私にとって「対話」であったのかも知れない。
撮影者と被写体の間で紡がれる無言の対話。
多分、体を重ねることよりも、ずっと大切なことだった。
私は写真を撮ることで、彼女との繋がりを求めていた。

「大切なものは、失ってから初めて気付く」
誰かは言うだろう。
でも、そんなことは…、本当に大切なものは失う前から分かっている。
何かを持てば、いつかその何かは失われる。
失わないためには、初めから所有しなければいい。
だから…、大切なものを失いたくないから、誰かに依存することなく生きていくことを望んだ。

でも、それは、「今」を生きていくことを放棄しただけなのかも知れない。

未来に絶望を思い描き、それを避けるように生きることが間違っているのか、それは分からない。
しかし有り体に言えば、私自身そんな逃避のような生き方を望んでいる訳ではない。

必要なのは、「今この瞬間」を大切に生きること。
そして、その結果迎えるだろう未来が、たとえどのようなものであったとしても、真摯に受け止めることだ。

さて。
そろそろ内省の時間を終えよう。

「帰る場所」を誰かの中に見出すことは、今はとても曖昧模糊としていて、それこそ茫洋たる平原を歩くようなものかも知れない。

でも、まずは一歩目を。
出来ることなら、力強く、颯爽と。

by molcelsig | 2008-03-30 23:49 | 今日の出来事

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